研究内容

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超伝導体のヒッグスモード

超伝導体には、秩序パラメーターの振幅の振動に対応する集団励起モードが存在することが知られています(例えばレビュー[1]を参照)。素粒子であるヒッグス粒子との類似からヒッグスモードと呼ばれています。ヒッグスモードは電気的・磁気的に中性なため、光などの外場と相互作用させて直接励起することがこれまで困難でした。しかし、高強度のテラヘルツ光を用いることで、非線形光学応答を介してヒッグスモードと電磁場を結合させることができます[2]。この結合は、実際に超伝導体NbNにテラヘルツ光を照射した実験により観測されました[3][4]。

[1] R. Shimano, N. Tsuji, “Higgs mode in superconductors”, Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 11, 103 (2020).
[2] N. Tsuji, H. Aoki, “Theory of Anderson pseudospin resonance with Higgs mode in superconductors”, Phys. Rev. B 92, 064508 (2015).
[3] R. Matsunaga, N. Tsuji et al., “Light-induced collective pseudospin precession resonating with Higgs mode in a superconductor”, Science 345, 1145 (2014).
[4] R. Matsunaga, N. Tsuji et al., “Polarization-resolved terahertz third-harmonic generation in a single-crystal superconductor NbN: Dominance of the Higgs mode beyond the BCS approximation”, Phys. Rev. B 96, 020505(R) (2017).


非時間順序・揺動散逸定理

非時間順序相関関数(Out-of-time-ordered correlator (OTOC))は <A(t)B(t’)A(t)B(t’)> のように通常の時間順序に従わない相関関数のことを指し、量子多体系のカオスの性質(量子バタフライ効果)や量子情報の非局所化(information scrambling)を反映する新たな指標として期待されています。これらの相関関数の間に、揺動散逸定理の高次拡張と呼べるような一般的な関係式が見つかりました[1]。通常の揺動散逸定理が平衡状態のゆらぎと線形応答係数の間を結ぶ関係式になっているのに対し、非時間順序揺動散逸定理は量子多体系のscramblingの性質と非線形応答係数の間を結ぶ関係式になっています。また、非時間順序相関関数の指数増大率の上限を与えるMaldacena-Shenker-Stanford予想への応用もあります[2]。

[1] N. Tsuji, T. Shitara, M. Ueda, “Out-of-time-order fluctuation-dissipation theorem”, Phys. Rev. E 97, 012101 (2018).
[2] N. Tsuji, T. Shitara, M. Ueda, “Bound on the exponential growth rate of out-of-time-ordered correlators”, Phys. Rev. E 98, 012216 (2018).


非熱的固定点と非平衡臨界現象

量子多体系が反強磁性や超伝導などの長距離秩序をもつときに、系はどのように熱化するでしょうか?ハバード模型において長距離秩序をもつ状態から始めて相互作用をクエンチすると、系はすぐには熱平衡化せずに、非熱的固定点と呼ばれる状態に長時間トラップされます[1][2]。そこでは、外から加えたエネルギーがすべて熱に変わったとすると転移温度を超えているにも関わらず、非熱的固定点では長距離秩序が壊されずに保たれます。クエンチの強さを変えていくと、非熱的固定点において平衡状態のものとは別の非平衡臨界点が現れ、様々な物理量が平衡系とは異なる普遍的なスケール則に従います。

[1] N. Tsuji, M. Eckstein, P. Werner, “Nonthermal antiferromagnetic order and nonequilibrium criticality in the Hubbard model”, Phys. Rev. Lett. 110, 136404 (2013).
[2] P. Werner, N. Tsuji, M. Eckstein, “Nonthermal symmetry-broken states in the strongly interacting Hubbard model”, Phys. Rev. B 86, 205101 (2012).


周期電場駆動による斥力引力変換

電子は負電荷を持つため、電子間に働くクーロン相互作用は常に斥力です。しかし格子上の電子に時間に周期的な電場を加えると、電場の周波数と振幅が特定の条件を満たすときに電子間の有効相互作用を斥力から引力に変換できます[1]。この現象は、電子が周期電場の衣をまとったフロッケ準粒子と呼ばれる状態が作られることを利用します。フロッケ準粒子のバンド構造は、電場の効果が繰り込まれて変化します。そのバンド幅が「負」になることで反転分布した状態(いわゆる負の温度状態)が実現し、斥力が引力に変換されます。電子同士が直接引力相互作用し合う系が実現されると、高温で超伝導状態を誘起できることが期待されます。また、周期電場だけでなくパルス電場によっても同様の状態を作ることが可能です[2]。

[1] N. Tsuji, T. Oka, P. Werner, H. Aoki, “Dynamical band flipping in fermionic lattice systems: an ac-field driven change of the interaction from repulsive to attractive”, Phys. Rev. Lett. 106, 236401 (2011).
[2] N. Tsuji, T. Oka, H. Aoki, P. Werner, “Repulsion-to-attraction transition in correlated electron systems triggered by a monocycle pulse”, Phys. Rev. B 85, 155124 (2012).


光誘起モット絶縁体・フロッケ金属転移

散逸のあるモット絶縁体をポンプ光で連続的に強励起すると、ギャップ中に光電場の衣をまとったフロッケ準粒子のバンドが生成され、フロッケ金属状態と呼ばれる状態に転移します。このような散逸のある強相関電子系で実現される非平衡定常状態を扱うために、フロッケ動的平均場理論という理論手法を新たに提案しました[1][2]。この手法を周期電場で駆動されたファリコフ・キンボール模型に応用することで、フロッケ金属状態が興味深い光学応答を示すことがわかりました。特にポンプ光とプローブ光の周波数が一致する付近で新たな共鳴構造が生じ、光学応答係数が増幅します。この微細構造は、非平衡で初めて現れる量子補正効果に起因します。

[1] Naoto Tsuji, Takashi Oka, and Hideo Aoki, “Correlated electron systems periodically driven out of equilibrium: Floquet + DMFT formalism”, Phys. Rev. B 78, 235124 (2008).
[2] Naoto Tsuji, Takashi Oka, and Hideo Aoki, “Nonequilibrium Steady State of Photoexcited Correlated Electrons in the Presence of Dissipation”, Phys. Rev. Lett. 103, 047403 (2009).


非平衡動的平均場理論

量子多体系の非平衡状態を理論的に扱うことは困難を極めます。相互作用による非摂動的な効果と、量子力学的な時間発展を同時に考慮する必要があるからです。その中で近年発展してきたアプローチの一つに、非平衡動的平均場理論というものがあります(レビュー[1]を参照)。量子多体系の格子モデルを、格子点とそのまわりの平均場(不純物モデル)に置き換えて動的相関を取り入れながら自己無撞着に解く方法で、平衡系でよく知られている動的平均場理論を非平衡に拡張したものです。これによって、例えば強相関電子系の代表的なモデルであるハバード模型の非平衡状態を熱力学極限で解析することができるようになりました。

[1] H. Aoki, N. Tsuji, M. Eckstein, M. Kollar, T. Oka, P. Werner, “Nonequilibrium dynamical mean-field theory and its applications”, Rev. Mod. Phys. 86, 779 (2014).